〈3.屋根裏部屋〉

翌日の朝、私とクレアは夜明けとともにほとんど同時に目を覚ました。まだ開けていない引き出しや鬱蒼とした庭など、新しい家には探索していない場所がまだまだたくさんあったので、とてもゆっくり眠っている気にはなれない。

私たちは急いで着替えると転がり落ちるように階段を下り、階段ホールで何処から探険を始めようかと考えていた。と、そのとき玄関のドアが開いて、大きな梯子を手にしたお父さんが入ってきた。

「おはようお父さん。どうするの、その梯子?」
「やぁ、おはようお嬢さんたち。実は昨日書斎の天井に屋根裏に上がる戸口を見つけたんだが、気付いていたかな?」

なんてことだ。私はそんな発見があったなんて知りもせずに、虫食いした本に夢中だった。
「ひどいお父さん! なんで教えてくれなかったの!」

私の抗議にお父さんは、きっと私たち二人が昨日のうちに登りたがってしまっただろうから、と答えた。

書斎を調べていたときはもう日が暮れかけていたから危険だったし、屋根裏のことを話してしまうと興奮して眠れなくなってしまうからだという。

確かにその通りだ。自分の頭の上にまだ調べていない部屋があるなんて知ってしまったら、とてもじゃないけど眠れそうにない。

書斎の窓を全部開けて、私たち家族は開かれるときを待っている戸口を見上げた。

「それじゃあ、開けるぞ」
お父さんが私とクレアを振り返ってそう言うと、急に心臓がどきどきしてくる。見たことの無い風景、今まで入ったことの無い路地。そんな場所が私は大好きだ。

「うん! 早く開けて!」
私たちが声を揃えてすると、お父さんは大きく頷いて梯子を持ち、ゆっくりその先で屋根裏部屋への扉を押し上げる。

きいっという小さな軋み。そして扉の隙間から降ってきた埃が、溢れ出した光を受けてきらきらと光った。この扉が開かれるのは何年、いや何十年ぶりなのだろう? きっと屋根裏の中の空気は、この扉が閉められた時のまま時間を止めているのだ。

私は屋根裏部屋という言葉に、暗くて、狭くて、カビ臭いというものを想像していた。でも扉が開かれると、そんなのは思い込みだったんだと気付いた。

屋根裏には天窓があるらしく、私たちが今立ってる書斎よりずっと明るかったし、舞い上がった埃がその明るさの中で星空のように輝いていたのだ。

「それじゃあ、小さい順に登ってもらおうかな。クレア、おいで」
「私が先でいいの?」
クレアは自分が先発隊に選ばれたことにびっくりしているみたいだ。嬉しいのと同時に、とっても不安そう。

「あら怖いの? じゃあ私が先に登っちゃおうかな?」
「ダメ! 私が行く!」
クレアは少し怒ったような顔をして、私にぬいぐるみのトールを押し付けた。

「よし、じゃあゆっくり登るんだ。
「手を置く場所に気を付けるんだよ。釘が出ているかもしれないからね」
お父さんにおしりを支えられながら、クレアは梯子を登っていく。実はちょっとだけ羨ましい。始めての場所に自分が一番に行くっていうのは、なかなかあることじゃない。

「うわぁ! すごいよおねいちゃん! 早く来て!」
天井が軋む音で、クレアがどんどん奥に進んでいるのが分かった。

「クレア! あんまり急に動くんじゃないぞ。さあジェシカ、登っていいぞ」
早く登りたくてうずうずしていた私は梯子に飛びつき、ゆっくりと登っていった。

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