〈6.不思議な本〉

その包みはとても厳重に包まれていた。まず蝋引きした紙で二重に包まれており、そして最後に滑らかなクリーム色の絹を取り去ると、やっと中身が姿を現した。

rest

それは一冊の本だった。でもひょっとしたら日記か手帳かもしれない。高さ20センチ、幅15センチ、厚さは3センチくらいの大きさで、表紙は長い年月を経てあちこち毛羽立って変色した厚い革。頑丈そうな金具が表紙と裏表紙とをしっかりと固定していて、簡単には開きそうにない。

また、その本には裏にも表にも背表紙にも題名や署名が無かった。ただ表紙の中央に、例えるなら蜘蛛の巣のような形の錆びたエンブレムが埋め込まれているだけだ。

「なんだぁ、宝物じゃないのぉ?」
机の端に乗り出してお父さんの作業を見つめていたクレアは、がっかりしたように椅子に腰掛けてしまった。でも私はがっかりするどころか更に興奮してきた。

ただの本のためにここまで厳重に包んで、更には本そのものにまで留め金を付けているなんて有り得ないとは思わない? きっとこの本にはなにか重大な秘密が書き込まれているに違いないんだ。

お父さんも同じ考えだったのだと思う。気のせいかもしれないけれど、留め金を外そうとするお父さんの指先が微かに震えているように私には見えたのだ。 ついに本が開かれる! だけどそう思った瞬間、お父さんは信じられない言葉を口にした。

「あれ、これは……開かないかもしれないな」
「えぇ! 開かないの?」
とても期待してどきどきしていた私は、お父さんの言葉につい大きな声で叫んでしまった。せっかく贈り物を貰ったのに開けてはいけないと言われてしまったようで、とてもがっかりしてしまったからだ。

「鍵が掛かっているわけじゃないみたいだが、掛け金が動かないんだ。錆びてしまっているのかもしれないな。
「無理して壊してしまうと大変だから、修復の専門家に見せるしかないだろう」

私はすっかり力が抜けて、クレアの隣に座り込んでしまった。この本の中身が今すぐに見られないなんて、とても耐えられそうにない。

「そんな顔するなよジェシカ。どちらにせよ誰か専門家を呼ばないといけないから、そのときに開けてもらおう。本当は私もがっくりきてるんだから」

次の朝目が覚めると太陽はすっかり昇り、隣のクレアのベッドは空になっていた。昨晩はお父さんとふたりでかなり夜更かしをしてしまったので、まだ眠り足りないくらいだ。

waking

髪に櫛を通し、着替えを済ませて階段を下りると、キッチンの天窓から差し込む眩しい光の下でクレアが一人でパンをかじっていた。
「あれ、お父さん居ないの?」

「うん。電報を打ちに行くって。センモンカのおともだちに来てもらうんだって」
どうやらお父さんは友人にあの本や、その他に見つけた品々を調べてもらうために連絡をとりにいってしまったようだ。

「午後には戻るから、そうしたら今度は外に探険しに行こうって言ってたよ。だからそれまでは家の中で待ってなさいって」

私は二人分のお茶を煎れてクレアに差し出し、籠からパンを取って食べ始めた。午後からの深い森や原っぱでの探険もとても楽しみだったが、私の頭の中は昨日見つけた様々な物とあの本の事でいっぱいだった。

どうしてこの家にあったのか、どうして世に出ずにしまい込まれたのか、そして書かれていたことは果たして事実なのか、それとも作り話なのか。考えるほどに、あの本の中身が気になって仕方が無い。
「ねぇクレア。ご飯食べたらまた昨日の続き見てみようか?」