〈5.探検の記録〉

屋根裏部屋の探検は素晴らしいものだった。様々な家財道具がそこにはあり、引っ越してきたばかりで殆ど揃っていなかった家具もひと通り揃えることができたし、そして何よりあの古い物入れを見つけることができたのだ。

少なくとも四百年以上は昔の品だというお父さんの意見の通り、中には中世の騎士が身に付けていたような剣や様々な旅の道具、帳面や地図などが入っていた。

探検を終えて夕食を済ませた私たちは、さっそく物入れから出てきた品々を書斎の大きな机の上に広げ、じっくりと調べてみることにした。

物入れから出てきた文書はかなりの量で、多分ぜんぶで百科事典二冊分くらいはあるんじゃないかと思う。

クレアは私に、私はお父さんに、お父さんは辞書に分からないところを教えてもらいながら読み進めてゆくうちに、私はこの文書が旅の記録などではなく、小説やお芝居の世界を作るためのアイディアをまとめた物なんじゃないかと思い始めた。

なぜって、文章が描き出す世界が、あまりに突拍子も無い物だったからだ。例えば、こんな文があったら信じられる?

『空を飛ぶ鉄の箱に乗り砂の海を渡った。
『そこは異常に成長した茸が密生する深い森。
『胞子に咽せ、苔に足をとられ三日。
『ここには誰も、何も居ないのか。
『遠く微かな鳥の歌声にすら涙が溢れる。
『ここにあるのは孤独だけだ』

こんな世界があるなんて聞いたことも無い。これは架空の世界を日記のような文体で書いた物語のようなものなんだと、私は感じ始めた。

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でもたとえ嘘だとしても、この文書の魅力は少しも衰えない。ときに自信に満ち、ときに不安げな様子の探検家が次々と色々な世界を旅して廻る姿。次々に現れる不可思議で異様な植物や建物、意味不明な機械などに私はすっかり魅了されてしまった。

「どうやらこれは創作のようだね。どう思う?」
お父さんに尋ねられて、私はどう答えて良いか迷ってしまった。確かにこんな世界はとても信じられないけれど、心の何処かでは信じたかった。というより信じさせてしまう何かがあったんだ。

「ちがうよおとうさん。本当のことにきまってるじゃない」
私が迷っていると、クレアが口を尖らせてお父さんに言った。

「クレアが本当だと言うなら、お父さんも信じるよ。
「ところでジェシカ。クレアが見つけたあの包み、どうした?」

「あ、そうだ。すっかり忘れてた。何が入ってるんだろうね」
私は書類の山を見回して、埋もれていた包みを掘り出した。てかてかと光る紙で包まれ、しっかりと縛られたその包みは、見つけたときにお父さんが言った通り見た目よりずっと重かった。

とりあえず書類を片付けた私とクレアは、お父さんが包みを開けようとするのを息を呑んで見守った。

本当か嘘か、その答えはまだ分からなかったけれど、どちらにしてもこんなに素晴らしい旅行記を書いたひとが大事にしまっていた包み。なにかとんでもない仕掛けがありそうな気がして、私はどきどきしてきた。