〈4.謎掛けの橋〉

仄かなランプの明かりで足元を照らしながら、私は坑道の奥深くへと下っていった。つるはしで削られたような荒い岩肌からは、先程のホールで見たのと同じような水晶が所々から突き出している。

坑道は網の目のように細かく枝分かれしながら広がっているようで、たくさんの分かれ道があったのだけれど、私はずっと広いほうの道を選びながら歩いていた。下手に脇道に入ってしまったりすると、とてもじゃないけど元の道に戻れる自信がなかったからだ。

もうかなり深くまで下ってきたような気がするけれど、まだ変わったものは見つけられない。ひょっとしたら道を誤っているのかもしれないけれど、それを確かめることもできない。

とそのとき、通路の奥で何かが光を反射したような気がして、私はランプを前に突き出して目を細めた。何かがある。

少しどきどきしながら近づいてゆくと、突然に通路が断ち切れていて、そこから細い橋が暗闇の中へと延びているみたい。そして橋の左側には、丸みを帯びた箱のようなものが天井から吊り下げられているようだ。

手前で立ち止まって崖のように見える橋の下を覗き込んでみると、幸いそこは崖ではなくて、私の身長ほどの高さの段差になっているだけだった。もしも落ちたりしたとしても、たいした事はなさそう。

だけれど橋はかなり痛んでいるようで、一歩踏み出してみると床板に使われている木材がみしみしとうめき声を上げている。

私は橋の左右にある手摺にしっかりとつかまりながら、箱のように見えるものへと近づいていった。それは天井に埋め込まれたレールから吊り下げられていて、頑丈なフレームの中に人がひとり入れそうなくらいの箱と、その上を覆う簡単な屋根がついているというものだった。

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ひょっとしたら、これが手帳に書かれていた<鉱山にあるあれ>なのだろうか? ぱっと見は遊園地にある乗り物みたいだけど、全然楽しくはなさそう。というより乗るのがすごく怖い。

だって、橋の右側にはこれと同じものがレールから落っこちて滅茶苦茶に壊れた残骸が放置されているんだ。もし自分が乗っているときに同じように落ちてしまったらと考えると、とても乗ろうという気になんてなれない。

じっと残骸を見つめたまま、私はしばらくのあいだ固まってしまった。絶対に乗りたくはないんだけれど、多分これしかないんだろうなという思いもあったりして、どうしていいか分からなくなってしまったのだ。

かなり長いこと答えのない問題を考えて、私はようやく箱の縁に手をかけた。そこからまたしばらく考えて、ぐらぐらと揺れる箱の中に片足を入れる。

ついに乗ってしまった。箱の中には椅子みたいなものがあるのかな、と思っていたんだけど、そんな親切なものはなくて、本当にただの箱。そして箱の縁には引いてくださいとでも言うように、大きなレバーが取り付けられていた。

ここまできたら、もう覚悟はできている。私はレバーを握り、ぐいっと倒した。が、何も起こらない。手を離すと勢い良く元の位置に戻ってしまって、何度か試してみても反応はなかった。

がっかりすると同時にとてもほっとして私は、箱から抜け出して何か箱を動かす方法があるんじゃないかと辺りを見回す。

正直に言うとそんなものはないことをちょっと期待していたんだけれど、橋の先端に何かの機械があるのを発見してしまい、私はため息をついてそれに近づいた。

その機械は床から延びた支柱に支えられた楕円形のパネルのようなもので、5本のレバーがひと組になった複雑なスイッチが左右にふた組並んで取り付けられている。

そして、そのスイッチの下には短い文章が彫り込まれていた。
『運転 左25 右11
停止 左14 右19』

その文章を見て、私は再び固まってしまった。さっぱり意味が分からないのだ。左右のレバーはそれぞれ5本。つまり5本のレバーで25かそれ以上の数字を表現するってこと? どうやったらそんなことが出来るんだろう?

そういえばあの泉があったホールにも、5に関係した記号があった。あれは確か点と線が5つ、扇型に並べられたような記号だったけど、なにか関係があるんだろうか。

私は眉を寄せながら両手の掌を広げて、じっくりと考え始めた。

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