〈2.空と砂と風〉
暑い。まだ夏も始まったばかりだというのに、なんでこんなに暑いんだろう。とても眠くて面倒だったけれども、私は我慢できずに目を開いた。でもそこは引っ越してきたばかりの素敵な家の寝室ではなかった。ここは何処なんだろう?
とても狭く、丸い部屋だ。ひょっとしたら部屋じゃなくてテントなのかもしれない。だって、ここの壁はざらざらした革で出来ていて、錆びた鉄の骨組みで支えられているだけなんだから。
私は何をしていたんだろう。確か書斎に居て、食事を作って……突然に私はすべてを思い出して起き上がった。そう、あの本だ。あの本に描かれた絵に触れた瞬間に、私は気を失ってしまったんだ。
急いで立ち上がったせいで立ちくらみがする。地面がゆらゆらと揺れているようで、真っすぐ立っていることができない。
ちょっと待って。立ちくらみがこんなに長く続くことなんてない。本当に地面が揺れているんだ! 私はびっくりして辺りを見回した。そして、信じられない場所に自分がいるのだと気付いてしまった。
果ての見えない砂漠の真ん中。しかも地を覆う砂が、まるで海のように波打っている!
不思議なことに、私はこの場所を知っているような気がした。どこで見たのだろう。 ここは……そう! あの本に描かれた絵の場所だ!!
それに気付いたとき、私はまた気を失いそうになってしまった。あの本に触れた瞬間にどんな力が働いたのか分からないけれど、私はここに来てしまったのだ。
私は思いきり自分の頬に平手打ちした。無茶苦茶痛い。
てことは夢じゃないんだ。一体どうしたらいいんだろう。こんな砂漠だか海だか分からない所で、たった一人で何が出来るというんだろう。しかもここはとても暑くて、もう喉はカラカラだ。
そしてここが砂漠だとしたら、日が落ちると今度は信じられないほど寒くなるだろう。そしたらとても今の服装では耐えられそうにない。ひょっとしたら死んでしまうかもしれない。
私はとても悲しくなってきて座り込んでしまったが、床に付いた膝の下に何か硬い物が落ちていて、思わず「痛いっ!」と叫んでしまった。でもその落ちていた物を見て、悲しんでいる場合ではないと気付いた。
それは紙に包まれた一粒のキャンディだった。リンクスというお店が作っているミント味のキャンディ。 クレアはこのキャンディが大好きで、いつも2、3個は持っている。これがここに落ちているってことは、クレアも間違い無くここに迷い込んで来ているはずだ。
クレアは何処に行ってしまったんだろう。今頃ひとり寂しくなって泣いているかもしれない。そしてクレアがここに居ないってことは、この場所から抜け出す道が何処かにあるっていうことだ。
私はキャンディを握りしめて立ち上がった。こんな所で落ち込んでいても何も始まらない。クレアを探し出して、お父さんの待つ家に帰るんだ。